
◆「和紙」にも違いがある

↑そう思ったあなた、その通りです、「和紙」はどこにでもあります。私も以前はそう思っていました。
――しかし、実はですね、現在「和紙」として流通しているほとんどのものは
製紙工場で抄(す)かれた「機械抄き」の「和紙」です。


もちろん、紙は手漉きからはじまりました。では、いつ頃、どのように和紙が機械抄きになっていったのでしょうか……
◆明治のはじめ、洋紙の生産が始まる
新壱万円札の図柄となる渋沢栄一は、近代的な大規模製紙会社「抄紙会社」(後の王子製紙)を設立した人でもあります。「国を発展させるには、知識、教養を高める新聞や書籍の普及が必要で、そのためには安く大量に洋紙を製造するべき」と考えました。輸入される洋紙は高価だったので「国産洋紙」を生産する必要があったのです。


次々と製紙工場が建設され洋紙の生産量は増えていき、明治36年(1903)小学校の教科書が手漉き和紙から洋紙に切り替わった後、数年の間に和紙の生産量は洋紙に追いつかれてしまいました。
◆「機械抄き和紙」が登場
和紙の生産者も手をこまねいていたわけではなく、工場の機械で「和紙」を「抄く」ようになりました。いわゆる「機械抄きの和紙」です。

そして現在は「機械抄き和紙」が主流となっています。
現在、手漉きの和紙と機械抄きの和紙の生産量はどのくらいの比率なのだろう?と調べてみましたが統計が見つかりませんでした(どなたかご存じの方がいらっしゃったら教えていただきたく思います)。
◆手漉きと機械抄きの違い

一言でいってしまえば、手漉きは価格が高いものが多く、機械抄きは比較的安いです。目的、用途によりそれぞれ使い分けると良いでしょう。
◆現在は希少な手漉き和紙
和室が減り洋室が増え、行灯、提灯は電気照明に、傘もナイロンに……、
だんだんと和紙の需要自体が少なくなった上に機械抄き和紙が主流に……。
和紙づくりは、農家が田や畑仕事の合い間、冬の農閑期にしていたものですが、明治34年をピークに紙漉き家は減り続け、現在は各県に片手で数えられるほどとなりました。

現在、和文化への関心、自然、本物指向への高まりから手漉き和紙がまた見直されつつありますが、10年、20年先はどうなっているのでしょうか……。
◆原料の輸入がはじまる
和紙は「手漉き」「機械抄き」の違い以外に原料にも差があります。和紙の主な原料は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)です。

年々、楮と三椏の生産量が減るにつれて輸入が増えました。(雁皮は人工栽培は困難で自生しているものを採取して使用します)。
一説によると1975年、台風の影響で高知県の楮が不作となり、タイ産の楮を使ったのが「外国産楮の和紙」の始まりだと言われています。それ以外に中国、パラグアイ産の楮、フィリピン産のフィリピン雁皮(サラゴ)やマニラ麻(アバカ)、中国やネパール産の三椏などが使われてきました。

和紙の生産・販売業者は、お客様の求める価格と品質に見合った原料を使います、楮以外にも洋紙の原料である木材パルプを混ぜることもあります。
コストを削減するために外国産の原料を使いはじめると、それに影響を受けて国内の生産者価格も下がる方向に、そしてだんだんと栽培から手を引く農家が増えてきた、さらに高齢化が進み後継者があらわれない――それがリアルな現実です。


楮は日当たりの良い斜面で育てられることが多いのですが、真っすぐにスクスク健康に育てるには草取りや芽かきなどの手入れが必要です。
また楮の皮むき、はがす作業は機械化されているわけではないので多人数の手間、そして時間もかかります。また農閑期の副業で本業というわけではありません。
――以上のようなことが後継者不足の要因だと思われます。
このままでは国産の楮がなくなってしまうのではないか……そんな声が多く聞こえてきます。
ただし、近年は国産楮が見直されて、生産量を守る、増やす、産地のブランド化などの動きが出てきました。多少、未来に期待が持てそうな雰囲気がありますが……どうなるのか……
たとえ少量であっても国内での楮の栽培、加工が受け継がれるように願います。
◆一般的な「和紙」は輸入原料、機械抄き
「和紙」の製品一つ一つに「これは手漉き和紙です」「これは国産の楮です」と記されているわけではありませんが、私たちが文具店、またはホームセンターなどで目にする「和紙」はほぼ「機械抄き」「輸入原料」または「木材パルプ混入」のものです。
折り紙、千代紙から障子紙や襖紙、習字の稽古に使われる半紙など、和紙の専門店以外で手漉きのものをあまり見かけません。そもそも機械抄きは大量生産が可能ですが、手漉きの和紙は一枚一枚、人の手で漉いているので出回る量が少ないだろうということは容易に想像がつきます。


機械で抄けば短時間で大量に生産することができます、原料にこだわらなければ安く提供することができます。手軽に気軽に買って使うのならば機械抄きでも十分と言えます。
「手漉き」と「機械抄き」の違いは「手打ちそば」と「カップラーメン」にたとえてもよいと思います。

手漉きの和紙を知らずに、
機械抄きの和紙が「和紙」であると思われている方も多いとお見受けします。
まず、手漉きの和紙を手に取っていただき知っていただいてから、
予算、用途に応じて機械抄きの和紙と使い分けていただきたいと思います。
◆「手漉き和紙」の魅力
「機械抄き」にも良いところ、ふさわしい使い道があると思います。
ただし和紙、本来の魅力は「手漉き」にあります。
――なぜなら、自然いちばんに近い紙だからです。



原料となった楮、その育った土、水、大気、和紙の中に自然の息吹と言いますか、精氣、エナジーと申しましょうか、野生と表現した方がよいのか……感覚的なことを文章でつたえにくいのですが、とにかく力を感じます。
工場でつくられるティッシュペーパー、ノートのような洋紙は薬品で余分なものを除いたり、漂白されています。
もともと漂白剤などない時代につくられていた伝統的な手漉き和紙は、天日で干したり川の水にさらしたり、雪の上に広げて並べたりと自然漂白をしていました。(現在は原料を漂白してある和紙もありますが)
大きな製紙工場が建造されたおかげで、
安くたくさんの紙を使うことができています、素晴らしいことです。
が、一方で和紙の文化も続いていってほしいと願います。
ぜひ一度、国産の原料を使った手漉きの和紙を手に取ってみてください。




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